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理事長ごあいさつ

こころと体を解きほぐし、人とのつながりを豊かに回復(リカバリー)していく

公益財団法人 北海道精神保健推進協会
こころのリカバリー総合支援センター 理事長 阿部 幸弘

こころとは何でしょうか?これを、きちんと言葉にするのは案外難しいのですが、こころの性質について少なくとも、二つの事を押さえておきたいと思います。まず「こころと体は、全く別のものではない」こと、そして「こころの動きは、一人ずつの中だけにあるのではなく、人々や世界とのつながりの中にもある」こ と。――だからこそ、こころがのびのび弾んでいる時は、景色も美しく感じられるわけです。こころは色んな風に周りとつながっているのではないでしょうか。

「こころのリカバリー総合支援センター」はこれまでも、こころの回復を手助けする仕事を続けてきました。私どもは現在、”こころ”に関して、おおむね二つの仕事に取り組んでいます。

一つ目は、「精神科デイケア」と呼ばれる”こころのリハビリテーション”です。当センターの前身である「札幌デイ・ケアセンター」は、平成元年2月16日に”独立型デイケア施設”としてオープンしました。そのころは精神医療について「隔離収容主義の時代を克服し、地域精神保健の理念が叫ばれ出して」(注1)久しい時代ではありました。しかし、世論を変え社会を動かし実際に当施設をスタートさせるまで、実に10数年の歳月を要したと聞いています。初代理事長の伊東嘉弘先生はこう語っています――「時間はかかったが、構想を練り、関係者の熱意が地方議会を動かし、関係自治体の意思決定を促すには必要な時間であった」。当時、力を尽くしてくれたのは、専門家の団体だけでなく心の健康に関わる団体や、精神障害者の家族の団体でした(注2)。「このときの家族会のエネルギーはまさに刮目に値するものであり、また感動的な出来事でもあった」(注1)のです。

さて、四半世紀を経た今では、精神科デイケアは非常にポピュラーな治療技法となり、多くの医療機関で実施されるようになりました。しかし当センターは、時代の求めに応じて、さらに精神科リハビリテーションの領域を広げることにチャレンジしています。たとえば「高次脳機能障害」や、青年期の社会的不適応(いわゆる「ひきこもり」問題や、発達障害の要素を抱える人たち)にも対応できるプログラムを編み出そうと、徐々に経験を積んでいます。スポーツや様々な作業、また色々な文化活動を通して、こころと体を解きほぐし、人とのつながりや社会との接点を、より豊かに創っていくことが、回復には何より大切だと考えています。

もう一つの仕事は、地域に出かけて行って、こころの回復のお手伝いをすることです。身体障害や知的障害に歴史的にやや遅れる形で、精神障害にも福祉の関わりが重視されつつあります。ここ数年は、北海道のあちこちで研修会等を催し、各地域の地域生活支援センターとも協力しながら、精神障害者の社会参加の道を広げる一助になろうとしています。特に、当事者にピア・サポーター(注3)として精神障害者自身に関わってもらう事業には、重点的に力を入れています。悩んだり病んだりした体験は、誰にとっても決して無駄ではなく、実はその経験が自分や人を助けることがある、と私たちは考えています。

このような、地域も視野に入れた広い活動内容にふさわしい施設名とするために、当センターは2009年4月より「こころのリカバリー総合支援センター」と改称しました。私どものデイケアは、それ自体が『目標ではなく、リハビリテーションにおける通過施設』であり、『その後の生活を再構成するための手段』であることを常に意識し、就労、福祉就労事業所への通所、在宅での自立という形でプログラムを終了し、社会参加することをめざしています。また今後の課題として、障害のあり方に関わりなく、様々な人が地域でどう自分を生かしていくか、またそれを受け入れやすい社会はどうあると良いのか等、まだまだ模索すべきことはたくさんあります。

最後に、「リカバリー」を日本語に訳すと回復の意味になりますが、実はちょっと深い意味を込めてあります。私たちは、症状が取れるのが治ることと、単純に考えてはいません。悩み苦しんだ経験も糧にして、人は変わっていくことができます。自分自身について柔軟に考えられるようになる人、他人に対してとても寛容になる人、社会の中の居場所を上手につかめる人、気持ちが安定する人、様々な成長や変化があり得ますが、それは病気になる前に戻ることでは、どうやらないようです。そしてその先に、社会にどう関わって行くのか?という問いがあります。これに答えていくのは、障害者だけの問題であるはずがなく、すべての人が持つ問いなのです。――こころのリカバリーに向けて。

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